【味噌と酒精】みその品質を守る発酵のパートナー酒精とは?

味噌の商品裏側にある表示ラベルをよく見てみると、「酒精(しゅせい)」と記載されているのを見たことがありませんか?
「酒精って何?」「本当に必要なの?」と疑問に思う方も多いかもしれません。
しかし実際には、酒精は、味噌や醤油、日本酒などの発酵食品や麺類、お菓子などさまざまな食品の保存性や品質を守るために重要な役割を担っています。
本記事では、そんな酒精について詳しくお話ししたいと思います。
酒精とは 〜味噌と酒精の関係を知っていますか?〜
味噌に入っている「酒精」とは何?
酒精(しゅせい)とは、アルコールのことです。
「エチルアルコール」は国際化学命名法の呼び名、「エタノール」は慣用名、「酒精(しゅせい)」は日本語の名称です。
呼び方は違いますが、同じものを指しています。
酒精は、食品表示のルールでは添加物として分類されます。
添加物という言葉に敏感になる方もいるかもしれませんが、ご安心を!
酒精は食品用のアルコールで、もちろん体に害のあるものではありません。
蜂蜜やサトウキビなどの糖質と、トウモロコシやジャガイモなどのでんぷんを原料にし、それらを糖化し、発酵後に蒸留してつくられています。
気になる「量」と「安全性」について
酒精(アルコール)は、日本酒ならおよそ15%、ビールで3~4%、ウイスキーなどの蒸留酒で35~55%程度含まれています。
味噌の場合、醸造元により異なりますが、一般的に4%程度添加されます。
酒精は食品用のアルコールなので、口にしても害はありません。
特に、味噌の場合、みそ汁はだし汁でのばすので、完成した料理に対する酒精の濃度は低くなります。
また、加熱によって蒸発しますが、加熱しなくても味噌に含まれる酒精は少量なので、心配する必要はありません。
もちろん、お子さまや妊婦さんが口にしても安心ですし、飲酒運転にもなりません。
お味噌汁を飲んで酔っ払ったという話は聞いたことがありませんよね。
味噌における酒精の「役割」とは?
お味噌に含まれる酒精(アルコール)は、大切な役割を担っています。
味噌は発酵食品なので、そのまま放っておくと発酵が進みすぎてしまい、風味が変わったりガスが出て膨らんでしまったりすることもあります。
そこで、登場するのが酒精!酒精は、味噌の発酵の勢いをほどよく抑え、ガスを抑える役割を担っています。
酒精のおかげで、私たちは安全に美味しい味噌を手に取ることができるんですね。
味噌にはもともとアルコールが入っている⁉
実は、味噌にはもともと酒精(アルコール)が含まれているってご存じですか?
味噌の原料は米・大豆・食塩。そして、みそ独特の美味しさを生み出すのが「発酵」という魔法です!
みそづくりの過程では、麹菌(カビ)の酵素が米や大豆を分解して糖やアミノ酸を作り出し、それをエサに酵母菌(微生物)と呼ばれる微生物が働いてアルコール等を生成します。
そして、アルコールと脂肪酸がみそ特有の香りを作り出します。
さらに熟成を進めることで、みその特徴である色、香り、味を形成します。
ここでおもしろいのは、酵母が自分で作ったアルコールにやられて活動を弱めること!
この性質を活かして、味噌を販売する前に、みそに本来含まれている酒精と同じものであるアルコールを加えて発酵を止めるのです。
つまり、酒精を添加する方法は、味噌が本来持つ発酵の仕組みにぴったり合った方法なんです。
味噌そのものに含まれるアルコールを活用するので、味にほとんど影響がありません。
味噌に酒精(アルコール)を加えるのは、実は、とても理にかなった方法だと言えますね。
米味噌の製造方法 ~微生物の働き・栄養に注目!~
では、米味噌の製造方法を簡単にお伝えしながら、微生物の働きをみていきましょう。
【1】大豆・米麹・塩を混ぜる |
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麹菌(カビ)が酵素(タンパク質の一種)を生成 ・「アミラーゼ」:米のでんぷんを糖化⇒ブドウ糖など(甘み)に 麹菌は塩パワーにより死滅していくが、酵素は生きている |
【2-1】発酵 |
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酵母(微生物)や乳酸菌(細菌)が アルコールにより酵母菌の活動が弱まる |
【2-2】熟成 | |
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酵母や乳酸菌の活動は落ち着き ・「アミノ酸と糖が反応」⇒味噌・醤油らしい色に |
酒精(しゅせい)を加える アルコールを加えることで、微生物の活動をおさえて発酵をゆるやかに |
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【3】完成 |
※当社、マルマン醸造の製造工程となります
「酒精入りの味噌は体によくない?」という誤解
無添加や自然派食品が注目される中、「酒精」と聞くと人工的だと思われがちです。
しかし、実際には酒精は化学物質ではなく、自然由来の成分です。
発酵の進行を穏やかにし、味噌本来の香りと味を長持ちさせるための知恵なのです。
酒精を加えない「生みそ」の難点〜風味と実用性〜
近年、「生みそは体に良い」という声を一部で耳にします。
しかし、実は、その裏には大きな課題が隠れています。
発酵が続いている生みそを店頭に並べるには、ガスを逃がすためのバルブ付き容器が必須。さらに、輸送や陳列には冷却が欠かせません。
この手間とコストは商品価格に反映され、最終的にお客さまにご負担いただくことになってしまいます。
加えて、酒精を加えたお味噌と生みそとの栄養価には差がないにも関わらず、生みそは着色や風味の劣化が早く、賞味期限が短いので、取り扱いが難しいのです。
したがって、実際には、生みそは一般販売が難しくあまり市場に出回っていないのが現状です。
「菌が生きて腸に届く味噌でないと、意味がない」は本当?
「お味噌は発酵食品だから健康に良い」という話、一度は耳にしたことがありますよね。
「酵母や乳酸菌が腸まで届いて、腸内環境を改善してくれる」というイメージを持つ人も少なくありません。
すると、「酒精入りの味噌は微生物の活動がゆるやかになるから、健康効果があまりないのでは?」と思ってしまうかもしれません。
でも、ちょっと待ってください! 実は、そんなことはないんです。
結論を言うと、発酵食品である味噌は、商品にされた段階で
「毎日の健康づくりに役立つ有効成分や栄養分がたくさん含まれている」ということが科学的な研究や医学的な実験によって明らかになっています。
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その秘密は、前述の通り、お味噌の製造過程にあります。
麹菌が生み出す酵素の力により、でんぷんやたんぱく質が分解され、体内での栄養が消化吸収しやすい形に変わります。
さらに、酵素によって生み出されたオリゴ糖をエサに腸内の善玉菌が活性化し、腸内環境を整えてくれるのです。
また、食品を発酵することで栄養価や健康調節機能が大幅に上がることがわかっています。
つまり、昔ながらの製造方法でしっかりと発酵・熟成させたお味噌は、発酵食品ならではの豊富な栄養がたっぷり含まれているので健康に良いと言われるのです。
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「無添加が良い」、「自然のままが良い」―など、食に対する価値観は実に多様です。
ですが、イメージに左右されて本当に優れた方法や商品が見過ごされてしまうこともあります。
もちろん、私たちメーカーはお客様のニーズに応えることを大切にしています。
でも、それだけではなく、「価値がある」と信じられるものを追求していくことも、私たちの使命だと思っています。
おわりに 〜酒精は味噌を支える優れた相棒〜
酒精(しゅせい)は味噌の品質を守り、美味しさを長く楽しむために欠かせない存在です。
誤解されがちな酒精ですが、人工甘味料のように入れなくてもいいものを用いるのではなく、その添加には発酵を抑える役目が存在するという理由があり、安全で安心して使用できます。
お味噌は、酒精入りでもそうでなくても、発酵食品としての魅力や効能がたっぷり詰まっています。
安心して、毎日の食卓でお味噌を楽しんでください!
マルマン醸造 常盤 慎太郎